WONDERFUL STORIES:「私たち」の輝きはそこに

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前回のラブライブ!サンシャイン!!

突然ですがみなさん、Aqours First LoveLive、覚えてますか?

とても素敵なライブでしたよね。もう3rdライブツアーをやってるような時期だというのに、未だにあの景色が鮮明に思い出せる。楽しかったなぁ。

「いや、これ3rdの記事だろ。何言ってんだ」と思われてるかも知れませんが、まあ、言いたいのは1stの感想じゃなくて。1st当時書いた記事に、私は下のような内容を書いていたんです。

『皮肉な話です。ライブの目的はキャラ=キャストを成立させることだったのにね。ピアノ演奏もそのためで。しかしその目的は失敗しました。出来すぎの仮面は剥がれ落ちて、姿を現したのはキャストの素顔。けれどそれはとても魅力的なものでした。完璧な演技者としての姿ではなく、私たちと同じものを追いかけるドリーマーとしての姿こそがオタクたちを魅了させたものです。単純なビジネスではなく、その向こうにある「本当」の姿こそが。

ラブライブ!」が大好きなラブライバーたちの物語。誰かのフォロワーとして始まった人たちの物語。私も輝きたいという、ひとつの想いを共有する人たちの物語。9人よりも多い人たちの物語。私はそれこそが「ラブライブ!サンシャイン!!」の、Aqoursの最後のピースだと思います』

そう。あれは「私たち」の物語だった。未熟故の輝きがそこにはあったのです。

そして、あれから一年以上の時間が過ぎて、3rdライブの時期になりました。1stと同じくアニメの再現をメインにしたライブです。繰り返しますが、1stはとても素敵なライブでしたよね。しかし、そのままではダメです。いつまでも未熟なままではいけない。今のAqoursは駆け出しの未熟なドリーマーではなく、頂点を目指すことが出来る立派なスクールアイドルなんだから。あの時は出来なかったとしても、今は出来るべきだ。

これはつまり1stのリベンジとも言えるでしょう。未完成だったものを完成させるためのリベンジ。果たして彼女たちは、今度こそ「僕たちだけの新世界」に辿り着くことが出来たのでしょうか?

 

MIRACLE WAVE:ふたつの世界が重なる瞬間

2期6話。高海千歌は「ラブライブ!」で勝つために、3年生たちが作った振り付けを完成させようとします。しかし、どれだけ練習しても成功できない。もう時間がないというのに、一回も成功できないままで。

そんな彼女を励ます仲間たち。その応援に気を取り直して、もう一度挑戦してみる千歌ですが、失敗。ギリギリとかそういうレベルでもなく、完全なる失敗でした。

「ああ、出来るパターンだろう、これ!……なんでだろう。なんで出来ないんだろう。梨子ちゃんも、曜ちゃんも。みんな、こんなに応援してくれてるのに」

フィクションにおいて難関というのは、明確な法則を持つものです。昔のゲームとかだと、石か何かで道が塞がっていて通ることが出来ない、みたいなことが良くあるじゃないですか。それは決して偶然ではありません。まだそこを通るための条件を満たしてないから、資格がないから通れないのです。そこには必然性がある。

みんなが応援してくれてるのだから「出来るパターン」のはずなのに、なぜかまだ出来ない。何の条件を満たしてないのかわからない。

「千歌ちゃん、今こうしていられるのは誰のおかげ?」

「それは…学校のみんなでしょ。町の人達に、曜ちゃん、梨子ちゃん、それに…」

「一番大切な人を忘れてませんか?」

みんなが高海千歌を応援してくれる。信じてくれている。高海千歌の考え通り、その「みんなの信頼」こそが前へ進むための条件だとしたら。だとしたら、まだ一人足りない。だって、高海千歌だけは高海千歌を信じていなかったから。

でも彼女は自分を信じることにした。普通な自分でも良いと思った。条件は満たされました。再び成功に挑戦する彼女は、自信に満ちた顔をしている。今度こそ出来るパターンです。走り出した彼女がジャンプするその瞬間、場所はステージに変わり、音楽が流れ始める。Aqoursのメンバーたちが次々と登場し、最後に姿を現すのは。

伊波杏樹

そう。高海千歌ではなく、伊波杏樹さんです。アニメのダイジェスト映像から、アニメのライブを再現した現実のライブが始まる。3rdライブはそういう構成でした。1stでも同じでしたよね。彼女たちはまた「キャラ=キャスト」を演出しているわけです。

ですが、やっぱり高海千歌伊波杏樹は別人なんですよ。

スタートラインは似ている。それなりステージ経験を積んでいて、今回新しいことに挑戦することになった。それは彼女たちには難しい振り付けで。ゴールはまったく同じです。彼女たちの目標は、このステージにて「MIRACLE WAVE」を完成させること。

しかしその間にある「過程」は全然違う。伊波杏樹があの振り付けに成功するための条件は高海千歌のそれと同じではない。現実で大技を成功させるために必要な条件は、本人の技量と、たくさんの練習と、そしてその瞬間の運だけ。現実にはフィクションのような法則や必然性なんてないのです。

……そのはずですが。私たち観客としては、伊波さんの「過程」を観測することは出来ません。想像くらいは出来るけど、確認は出来ない。それは言うなれば空白のような状態です。3rdライブでは、その空白に「高海千歌の過程」を注ぎ込みました。ダイジェスト映像という形でね。そして「過程」がゴール寸前になった瞬間、高海千歌と入れ替わるように登場したのは伊波杏樹さんだったのです。

観客はそれを自然な流れとして受け入れる。

これはスタートラインとゴールが同じだからこそ成立するものです。たとえば、みかんの真ん中だけを見えないように隠しても、既に知っている記憶を使って全体象を補完できるように。現実の空白をフィクションを使って埋めている。

「そんなの今更では?」と思うかも知れませんが、1stではそれが出来てなかったんですよ。だって、スタートラインがあまりにも違うじゃないですか。例えるなら、逢田さんと梨子の場合が分かりやすい。

梨子は千歌に「大好き」と伝えた時点で進むための条件を満たしています。梨子はピアノが上手だから、技術的には何の問題もない。精神的な問題は克服したからもう成功するしかない。ですが逢田さんの場合はそうでもありません。彼女は初心者で、技術的なハードルがあまりにも高く、それを超えるためのチャレンジをしていた。

逢田さんのスタートラインは、その先どこかにいるはずである梨子の後ろ姿すら全然見えてない地点です。それを重ねたところで、空白を埋めることは出来ない。どうしても埋まらない部分が出てしまう。

伊波さんと千歌も同じく、スタートラインが遠く離れていて。1stはつまりキャラが立っている地点に追いつくためのチャレンジだったし、その埋まらない部分こそが人々を魅了させていました。桜内梨子ではなく逢田梨香子として。高海千歌ではなく伊波杏樹として。客はキャラとは違う彼女たちの努力と精神を高く評価した。

でも今回はそのスタートラインが同じ。伊波杏樹さんは高海千歌の後ろ姿を目指して、ではなく、高海千歌と肩を並べて同じゴールに向かって一緒に走ります。だって、彼女は1stにて既に高海千歌に追いついてたのだから。千歌も伊波さんも自分の限界に挑戦しているから。だから彼女たちの過程には互換性があるのです。自然に重ねることが出来る。

そうやって伊波さんの空白が「高海千歌」で埋められたことで、成功するための条件も「高海千歌」で上書きされます。必要なのはみんなの信頼。Aqoursの仲間たちと、伊波さん本人と、そして、応援してくれる「みんな」の信頼。

観客はただ信じることしか出来ないわけではありません。信じることによって物語を完成させる大事な役割なのです。現実的にはそうでなかったとしても、本当に必要なのは伊波さんの実力だけだとしても、今は関係ない。その瞬間の「物語」はそういうことになっているのだから。ここは現実とフィクションが重なった場所だから。

それはただ「アニメと同じ振り付けを見たよ、凄かったね」とかいうレベルの話ではない。観客がライブにて出会うのは圧倒的な質量を持つ「実体験」です。フィクションの中のものとまったく同じな、すごく生々しい経験。それを見たら「フィクションなんだからどうせ成功するでしょ」なんて言ってられない。

彼女を信じて、彼女の成功を祈る。やがて運命の瞬間、彼女を信じる「みんな」の力で「MIRACLE WAVE」の物語は完成され、その場にいる全ての人が喜びを分かち合う。そうやって現実とフィクションが重なる。作り出された嘘は紛れもない真実になる。

曲が終わった後のMCで「千歌飛んだぞー!」と叫ぶ伊波杏樹さん。それはただの演技とかではなく、伊波さん本人の心の叫びだったはず。確かにそのはずなのに、それは、間違いなく高海千歌の叫びでもあった。そう見えていた。

「MIRACLE WAVE」にて、伊波杏樹さんは紛れもなく高海千歌と重なっていました。

その瞬間は、かつて未完成のまま終わったものでした。けれど今回は違う。彼女たちがずっと目指した地点が、理想的な「ラブライブ!」が、このライブにて完成されたのです。それは本当に圧倒的な景色だった。

今回は意図されなかった未完成の輝きではなく、完成された輝きに対して、惜しみない賛辞を送りたいと思います。リベンジは大成功でした。本当に素晴らしかった。

 

Awaken the power:正しい物語のために

空白を埋めて現実とフィクションを重ねる……といえば「Awaken the power」も同じですよね。これは函館UCの記事でも語っていました。でも「今から読んでこい」とか言うのはさすがにアレなので、どんな話だったか簡単にまとめてみましょう。

田野さんと佐藤さんが始めてSaint Snowとして姿を現したのは、TVA2期上映会の時です。それ以来彼女たちは雑誌、ラジオ、生放送などのあらゆるメディアに出演しその存在をアピールしてきました。しかも、Saint Snowの地元である函館にてSaint Snow名義のライブまで開かれるという。助演だとは思えないくらいの優遇でした。

なぜそこまでするのか?

もちろん目的は「Awaken the power」の下積みでしょう。でもね、だからってそこまでする必要はないのです。別に3rdライブでいきなり登場させても問題はなかった。観客はそれでも普通に喜びますよ。だったら「金儲け」としてはそうしたほうがいい。わざわざ余計なリスクとコストを背負う必要はない。

わざわざ出演料を払って色んなところで紹介させる必要はない。遠き函館の狭い場所でSaint Snow名義のライブをするより、東京近くの大きい会場でAqoursメインのライブでもやったほうが稼げるでしょう。効率を考えるとそうなるじゃないですか。

しかし、そうしなかった。どうして?

それじゃ「ただの再現」になるからです。アニメと同じ曲を歌っているだけになる。現実とフィクションを重ねるためにはスタートラインを同じにする必要があります。

作中のSaint Snowに関してはみんな良く知っている。優勝候補とまで言われる実力派スクールアイドル。彼女たちはAqoursとはまた違う真剣さを持っていて。そんなSaint SnowAqoursが一緒に歌う「Awaken the power」は、まさに夢のコラボです。だって凄いじゃん。あのSaint SnowとあのAqoursの合同ユニットなんだよ?

しかし現実ではそうじゃなかった。ラブライバーにとってSaint Snowのキャストさんは、名前すら知ってるか怪しい感じの存在でした。いきなり3rdライブに出てきたところで、もちろん普通にサプライズとして喜ぶだろうけど、彼女たちが作中のSaint Snowと重なることはない。彼女たちがどんな人なのか、どんな実力を持っているのか、どんな心意気を持っているのか、まったく知らないのですから。

だから彼女たちのスタートラインをキャラに合わせるべく、存在を知らせ、ライブをした。彼女たちのパフォーマンスと情熱を見た観客は、彼女たちを現実のSaint Snowとして受け入れた。Saint Snowは最高だと叫んだ。そういうことです。

スタートラインを揃えたことで、空白は埋められ、現実でも「Awaken the power」は夢のコラボとなる。それはただの再現ではない。観客はグループの境界すら超越した眩しいステージを「実体験」として感じることになります。

なぜそこまでするのか?それが物語として正しいから。

そりゃ商売としてはそんな必要はないかも知れない。もちろん最低限のクオリティは必要なものですが、正直オタクはちょろいのでそこまでやらなくても喜びます。最低限のクオリティだけを維持しオタクを搾取するのがビジネスとしては賢いのでしょう。

でもね、世の中お金だけではないのですよ。あなたはAqoursのキャストがお金を稼ぐために嫌々仕事をしているだなんて思わないでしょう?彼女たちには良いものを作りたいという情熱がある。だから最低限ではなくベストを尽くそうとしている。それはキャストだけじゃなくて、プロジェクトチーム全体にも当てはまることです。

別にSaint Snowに力を入れたところで金儲けにはならない。でも、彼女たちはAqoursの輝きにおいて大事な存在です。そんな彼女たちを蔑ろには出来ない。商売としては微妙かも知れないけど、物語としては正しいから。正しくあろうとする作品だから。

それは本当に正しかったのか?その根拠は何なのか?…という話は、わざわざ口にする必要もないでしょう。だってあなたは、現実とフィクションが重なる瞬間を、その瞬間会場を埋め尽くす熱量を、その身を以って体験したじゃないですか。

それならば言葉なんて、いらないのです。

  

Aqours 3rd LoveLive! ~WONDERFUL STORIES~:「私たち」の輝きはそこに

そこまでする必要はない。でも、そこまでする。

それはSaint Snowだけの話ではありません。例えば「MIRACLE WAVE」のあの振り付けだって、別にそこまでしなくても良かったのですよ。やらなくたってオタクは「まあ仕方ないよな」って納得するだろうし、むしろ「そこまでやらせるなよ」なんて怒ってたオタクもたくさんいるくらいです。

演出的にもそう。その「MIRACLE WAVE」ではバク転直後の8割ショットが再現されていましたよね。たった一瞬のカットですが、単純に考えても10人以上のスタッフが動員されているはずで、細かい調整やリハーサルなども大変だったのではないでしょうか。

「Awaken the power」でも、原作のカメラワークを再現したショットがあって。佐藤さんはそのシーンがお気に入りらしく、でも自分でくるくる回ることは出来ないからと、カメラマンに感謝を伝えていましたね。

そういうのだって、そこまでしなくても良かった。みんな「あれはアニメならではの演出だ」と思ってたはずです。期待すらしてなかったはず。しかしそこまでした。先ほども言いましたが、頑張ってるのはキャストだけではありません。みんながより良いものを作ろうとし、ベストを尽くしている。物語を正しいものにさせようとしている。

言ってみれば何もかもが同じ。センターステージの床スクリーンなんて、そもそも見れる席がかなり限定されているのです。なのにあんなに出来の良い映像をずっと流していた。ソロ曲とか別に推しが歌って踊るだけでもみんな満足するはずなのに、とても完成度の高い演出になっていた。例えば「Beginner's Sailing」のカメラワークとか凄くて、完璧なタイミングで斉藤さんとカメラが向き合いクローズアップショットを撮ってるんですよ。見ててこれはめっちゃ頑張ったんだろうなと思った。

3rdライブはそのような「さすがにこれはやらないだろう」「さすがにここまではやらないだろう」と思っていた演出が多かったと思います。そうじゃない普通の演出でも、キャストとスタッフがいつもよりも息をあわせていましたよね。キャストの努力だけでは、スタッフの努力だけでは成立しないライブになっていた。そのバランスが傾いていた1stとは全然違うライブでした。

お金では説明できない努力。それはなんて言えばいいのでしょうか。例えば、情熱。例えば、プロ意識。例えば、愛。そうですね、それは愛です。来てくれた観客たちに良いものを見せようとする。仲間たちの夢のために努力する。その努力に感謝を送る。作品への愛。仲間への愛。観客への愛。いろんな愛が伝わってくるライブだった。

最初のほうにも書いてましたが、1stライブは「ラブライブ!」が大好きな「私たち」の物語でした。キャストも観客も「ラブライブ!」が好きだからこそ横浜アリーナに、劇場に集まっていて。しかしスタッフの企画とキャストの結果はどこか噛み合ってなかった。Aqoursはまだそこまで好きじゃないけど「ラブライブ!」だからとりあえず来てみたって人も多かった。彼女たちはまだ駆け出しの素人でしかなかった。

そんな中で、Aqoursは自分たちの輝きを証明してみせると宣言していました。

そして、1年以上の時が過ぎて、3rdライブ。

想いを込めて全力で歌って踊るキャスト。伊波さんの成功をわが事のように喜ぶスタッフ。大事なMCの時間を伊波さんを褒めるだけで使い切るキャスト。たった1曲の出番だけれども、正しい物語のために協力してくれるキャスト。キャストの呼びかけに拳や声を上げ応えるスタッフ。孫の活躍を見届け満面の笑顔で手を振る関係者。

そして、キャストの愛を受け、特に決めていたわけでもないのに、息を合わせてあの合唱をもっと素敵なものにしようとする観客たち。それを聴いた者が幸せいっぱいの笑顔を浮かべ、またそれを見た者たちも引き寄せられるように幸せな笑顔を浮かべる。みんながみんなを信頼し、愛している。

そのたくさんの愛が、ただの商売でしかないなんて、薄い書き割りにすぎないなんて、一体誰が言えるのでしょう。そこにあるのは金儲けなんかではない、本当の愛だった。

今の「私たち」はただ「ラブライブ!」が大好きだから集まったわけではない。田野さんは佐藤さんに「(Aqoursの)みんなが大好きだもんね」と言ってましたよね。伊波さんも他でもないAqoursのことが大好きだって何度も言っていて。そしてそれはきっと、ライブを見に来た観客たちもみんな同じで。

今の「私たち」はAqoursが大好きだからそこに集まったのです。だからこそお互いに愛を届け合うことが出来た。あの時とは違って全てが噛み合い、完成されていた。これは9人だけの物語ではない。想いがひとつになったら、11人でも、8009人でも、39999人でもいいのです。それこそが高海千歌の、Aqoursの輝きだから。フィクションのAqoursと協力者たちがそうだったように。

フィクションの真似や再現ではなく、紛れもない真実としての現実が、フィクションの物語と重なる瞬間。ずっと求めていた輝きは、探し続けていた「僕たちだけの新世界」は、きっと、そこにあったのでしょう。

本当の愛が、愛に生きる者たちが、そこにある。

ラブライブ!」というタイトルに相応しい、ステキな物語でした。

 

  

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