μ'sとAqoursとスクールアイドル:決して、手の届かない輝き

前回のラブライブ!サンシャイン!!

TVA「ラブライブ!サンシャイン!!」の1期1話。

高海千歌桜内梨子の出会い。千歌は梨子にμ'sの感想を聞きます。

 

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「どうって……なんというか……ん、普通?」

いやいや、あのμ'sですよ?あの伝説のスクールアイドルが普通だなんて、μ'sのファンが聞いたら「は?」ってなるでしょ。きっとそう。でもまあ、梨子ちゃんはスクールアイドルを全然知らないニワカですからね。仕方ないことです。

それで実際にμ'sのファンである高海千歌は、反論を……

 

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「だよね。だから、衝撃だったんだよ」

「みんな私と同じような、どこにでもいる普通の高校生なのに、キラキラしてた」

……せず、それを肯定してました。はい。これはどうしたものか。

しかしですね、ニワカなのは高海千歌だって同じなんです。自分でも最近知ったって言ってるわけで。だからこれも仕方ないことなのでしょう。彼女たちは知らないから仕方ない。μ'sの名前すら勘違いしてたせいで黒澤ダイヤに怒られるくらいですから。

でも、そのダイヤは違います。

 

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「言うに事欠いて、名前を間違えるですって?あぁ?μ'sはスクールアイドルたちにとっての伝説、聖域、聖典、宇宙にも等しき生命の源ですわよ!その名前を間違えるとは、片腹痛いですわ」

彼女はμ'sを知っているのです。さすがに盛りすぎな気もしますが、スクールアイドルのファンにとってμ'sとはそれくらい特別な存在だということでしょう。μ'sはスクールアイドルの黎明期に、素晴らしい実績を残した。梨子と千歌はそれを知らないだけ。

そう。彼女たちはμ'sを知らない。だからそんなことを言う。彼女たちは間違っている。

うーん、本当に、そんな結論でいいのでしょうか?

 

彼女たちは知っている

1期8話。TOKYOのイベントにて、残念な結果になってしまったAqours。予想外で残酷な現実を目の前にして、彼女たちは衝撃を受けます。

 

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「ただ、もしμ'sのように、ラブライブを目指してるのだとしたら……諦めたほうがいいかも知れません」

「馬鹿にしないで。ラブライブは、遊びじゃない!」

そんなAqoursに毒舌を吐くSaint Snow

Aqoursは言い返すことも、否定することも出来ませんでした。何が原因でこうなってしまったのか。やっぱり実力が足りないのでしょうか。μ'sの実力はAqoursなんかじゃ足元にも及ばないほど凄く、だからμ'sみたいにはなれないと、そんなパフォーマンスはただの遊びだと言われている?

 

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「人に見せられるものになっているとは思えない」

「私にとっては、スクールアイドル全部が素人にしか見えないの。一番実力があると言われるA-RISEも、素人にしか見えない」

いいえ、違います。私たちは知っている。μ'sだって別に優れた実力を持っていたわけではない、という事実を。絢瀬絵里はプロの世界を見てきた人間です。傲慢な言葉ではありますが、別に間違ったことを言っているとは思えません。彼女は真面目な人間だ。

そしてそんな彼女からするとあのA-RISEでさえ素人に見えるくらいだから、正真正銘ド素人の集まりであるμ'sなんて言うまでもない。なので、Aqoursとそんなに差はないはずです。どっちも同じく素人の、アマチュアのグループですから。

じゃあ一体何が駄目だったというのか。

 

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「あなたたちは決して駄目だったわけではないのです。スクールアイドルとして十分練習を積み、見てくれる人を楽しませるに足りるだけのパフォーマンスもしている。でも、それだけでは駄目なのです。もう、それだけでは」

Aqoursが駄目だったわけではない、とダイヤは語ります。A-RISEとμ'sによって、スクールアイドルの人気は揺るぎないものになったと。おかげで、アキバドームで決勝が行われている。そのせいで、レベルのインフレが起きた。それがダイヤの説明。

「そう、あなたたちが誰にも支持されなかったことも、私たちが歌えなかったのも、仕方ないことなのです」

駄目ではない。しかしそれだけじゃレベルが足りないという。じゃあ、パフォーマンスのレベルさえ高ければμ'sみたいになれるのでしょうか。

 

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「それは、上手さだけではないと思います。むしろ、今の出演者の多くは先輩たちに引けを取らない歌とダンスのレベルにある。ですが、肩を並べたとは誰も思ってはいません。ラブライブが始まって、その人気を形作った先駆者たちの輝き。決して、手の届かない光」

なれない、と聖良は語ります。レベルの向上に合わせたとしてもまだ足りないという。

 

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「だから、私たちも考えたことあります。A-RISEやμ'sの何が凄いのか。何が違うのか」

何かが足りない。何かが違う。それがわからない。現実をよく知っていて、優れた実力を持っている彼女たちですらそんなことを口にする。

 

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「あの時は、自分とそんなに変わらないって、普通の人たちが頑張ってキラキラ輝いているって、だから出来るんじゃないかって思ったんだけど」

ダイヤも、聖良も。今のスクールアイドルたちはμ'sを知っているつもりです。高海千歌だって、1期1話の時とは違う。今はちゃんとμ'sを知っている。だからこそ分からなくなった。思ったより凄い人たちだったのかも知らないと考え始めた。何が違うのか、何が足りないのか、知らないと思うようになった。

「何が違うんだろう、リーダーの差、かな」

個人の問題か。高坂穂乃果が特別な人間だったからか?

 

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それも違います。1期12話の千歌がこんなことを考えている理由は、同時期のμ'sは既に廃校の阻止がほぼ決まっていたのに自分たちは阻止出来てない、というものでした。

しかしその時期の高坂穂乃果は、緩やかに破綻へと向かっている真っ最中だった。精神的な成長を果たし、リーダーとしての、そしてスクールアイドルとしてのリスタートを決めるのはまだまだ先のことです。目的とか実績とかそんなのどうでもいいから、ただスクールアイドルがやりたいと。スクールアイドルが好きだと。そう叫ぶ前に、廃校は阻止出来ていた。彼女は簡単にやり遂げた。

高海千歌はそのリスタートを既に果たしています。そんなのどうでもいいから、スクールアイドルとして輝きたいと。このまま終わりたくないと。リーダーとして、スクールアイドルとして生まれ変わっています。少なくとも同時期の穂乃果よりは早く成長している。なのに廃校阻止はその影すら見えない。

 

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そういう精神的な問題ではないのか?

現実的に考えてみても、高坂穂乃果が何か特別なことをしていたわけでもありません。大会では特に何の活躍も出来ず降りてしまいました。普通の活動を積み重ねてきただけです。同時期の注目度で比べてみてもAqoursのほうが上だと言えるでしょう。講堂を満員に出来たタイミングもかなり違うし。

実力の問題ではない。リーダーシップの問題ではない。注目度の問題でもない。じゃあ何だというのか。何が違うというのか。

私たちも、彼女たちも、知っている。Aqoursはμ'sに追いつけてない。届いてない。

けれど、その理由がわからないのです。

 

彼女たちは知らない

スクールアイドルたちは「μ'sの凄さ」について何度も語っていました。

伝説のスクールアイドル。廃校の危機が迫った学校を救った。ラブライブで優勝した。スクールアイドルの人気を確たるものとした。アキバドームをスクールアイドルの聖地にした。

お気づきでしょうか。その全てが、μ'sの実績の話なんです。誰もパフォーマンスについては語らない。どんな人たちだったのかは語らない。ただ彼女たちが手にした栄光だけを語っている。凄いから実績を残した、ではなく、実績があるから凄いと思ってしまってる。そりゃあ理由がわからないわけです。結果だけを見ているから、μ'sはどうしてそんなことが出来たのか分からないのも当たり前。 

ですが、例外もあります。

 

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「みんな私と同じような、どこにでもいる普通の高校生なのに、キラキラしてた」

「それで思ったの。一生懸命練習して、みんなで心をひとつにしてステージに立つと、こんなにもかっこよくて、感動出来て……素敵になれるんだって。スクールアイドルって、こんなにも、こんなにも、こんなにも……キラキラ輝けるんだって」

「気付いたら全部の曲を聴いてた。毎日動画見て、歌を覚えて、そして思ったの。私も仲間と一緒に頑張ってみたい。この人たちが目指したところを、私も目指したい。私も……輝きたいって!」

この時期の高海千歌だけは、スクールアイドルとしてのμ'sを語っていたのです。何も知らない高海千歌だけが、μ'sの本質を見ていた。そして、自分もスクールアイドルを始めて、μ'sの実績を見るようになってからは、本質が見えなくなっていた。

知ってる人からすれば「いや、μ'sが普通なわけないでしょ」と思えるかも知れません。

 

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「プロのアイドルなら私たちはすぐに失格。でも、スクールアイドルなら、やりたいって気持ちを持って、自分たちの目標を持って、やってみることは出来る!」

でも、そんなんじゃなかったはずです。 μ'sは自分たちが特別だとは思ってなかった。彼女たちはあくまでも普通の高校生だった。彼女たちが語るスクールアイドル論は「何も持たない自分にだって出来るはずだ」と感じた高海千歌の考えと一致してるのです。

素人の遊びでしかないかも知れない。でも、そもそも素人の遊びレベルでよかったのです。スクールアイドルはそういうものだから。

 

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「伝えよう、スクールアイドルの、素晴らしさを!」

大スクールアイドル時代の幕を開けた「SUNNY DAY SONG」は、スクールアイドルの魅力を伝えるためのものでした。凄いのはμ'sやA-RISEだけじゃない。全てのスクールアイドルが魅力的だ。

そこには実力主義なんてありませんでした。参加資格なんて無し。スクールアイドルが好きなら誰でもいい。頂点に立つ者から、ステージに立ったことがない人たち、そもそもまだ入学すらしてない人たちまで。実力なんて関係なく、そこにある想いこそが大事だと語る歌だったはず。

μ'sの物語はそういうものでした。普通を象徴するμ'sと特別を象徴するA-RISEの衝突。勝つのは、普通。彼女たちは「普通」の夢を謳歌する。

でも、残ったのはμ'sとA-RISEの名前だけ。大会が何度も開かれたはずの数年後の物語ですら、語られるのは1回目と2回目の優勝者だけなんです。誰も全てのスクールアイドルが素晴らしいなんて語らない。肩を並べることなんて出来ないと思い込んでいる。

μ'sの普通は、いつしか特別へと変わっていた。

μ'sの本質は相変わらず普通です。何も知らない千歌はμ'sを普通だと感じている。それは正しい。しかし、時代の影響を受けた千歌はμ'sを特別だと感じる。認識が歪んでいる。知ることで本質が見えなくなっている。伝説としてのμ'sを知っている人には、スクールアイドルとしてのμ'sが見えない。皮肉な話です。

ですが、それは当然のことかも知れません。μ'sは何も残してない。今更μ'sがどんな人だったのか知る術はないのです。だから彼女たちは何も知らない。だからただ実績だけが、成果だけが残っている。知らないのは、実績に注目するのは何もおかしくないのです。

私たちはμ'sの活躍をリアルタイムで、間近で見たから知っているだけでしょう?そんな私たちですら、μ'sの実績だけを聖域化したりするのです。そういうものではなかったはずなのに。

μ'sの願いは半分しか叶わなかった。スクールアイドル界は歪んでしまった。それは紛れもない現実です。μ'sの輝きは眩しかった。あまりにも眩しすぎた。その輝きによってとてつもなく暗い影が生み出されてしまった。

歪んで捻くれ聖域化されたμ'sの面影だけがそこにある。肩を並べたとは思えないわけです。そんなものは、実在しない幻でしかないのだから。

 

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そんな現実の中で、Aqoursはどうなるのでしょうか。

彼女たちは優勝しました。それで実力を手に入れた。人気を手に入れた。名前を残した。しかし優勝者なんてたくさん存在していて、誰もその者たちを覚えていない。このままじゃAqoursだってすぐに忘れ去られることでしょう。

決して手の届かない輝き。Aqoursがμ'sに追いつくことは出来ない。μ'sは何も無い真っ白で純粋な道を走りました。高海千歌はμ'sが凄い理由をそう語っていた。しかし、それが出来るのは先駆者だけです。既に誰が通った道を、誰かが作り上げた道を走る以上、先駆者になることは出来ません。当たり前です。その輝きはもう手に入らない。

歪んだ世界のルールに従い頂点に立ったって、問題は解決されない。世界は変わらない。もちろんそれだけでも大きな成果であることは確かです。彼女たちの目標は叶ったのだから別にそれで十分と言えば十分なんです。出来るだけのことはやったのだから。そこで満足してそのままステージから降りてもいい。それ以上を望むのは過酷だ。

でも、もしかしたら。

何かを変えてくれるかも知れない。もうすぐ辿り着くことになる虹の向こうにて、世界が変わるような出来事が起きるかも知れないと。誰にも出来なかった、あのμ’sにすら完遂出来なかったことを、Aqoursならやってくれるかもしれないと。

やっぱり、期待せずにはいられないのです。