あなたと私は似ている:東條希と西木野真姫について
前回のラブライブ!
劇場版パンフレットの、脚本家花田十輝先生のインタビューにはこういう内容があります。
「だから今回は、絶対に絵里のかわいい部分を入れようと、心に決めていました。また集大成として、希と真姫の関係や、穂乃果&ことり&海未の幼なじみ3人のドラマを入れたり。にこのアイドルへの想いや、2期最後で部長やリーダーになった花陽&凛の未来に対する想いなども、意識しながら書きました」
希と真姫の関係、つまり、のぞまきと言うのがピンとこない方も多いのでしょう。その他に言及されてるほのことうみ、りんぱなに比べればかなりマイナーな組み合わせですから。
でもアニメではかなり大事な立ち位置にいるし、他の関係に劣らないほど面白い関係だと思うのですよ。こういうインタビューでも一番最初に言及するくらいだし、花田先生の中でも重要なポジションではないでしょうか。というか相当優遇されてるでしょこの二人。
というわけで、東條希と西木野真姫、この二人の関係について話してみましょうか。
先輩禁止:あなたと私は似ている
初対面は1期2話。希は真姫が隠している秘密、つまり作曲に対する悩みを知っているようなニュアンスでした。次の対面であるμ'sのファーストライブでも、真姫のことを察しているかのような笑顔を見せていたり。
初対面のはずなのに真姫について知っている、というわけですが、何もおかしくありません。ずっとμ'sのメンバーたちを注目してたらしいし、スクールアイドルを始めようとする2年生を監視している描写もあったので。
しかしそんな事情はまだ伏せられたまま、他人のことは知ってるのに自分の素性は全然明かそうとしない、ミステリアスなキャラでしたね、この頃は。
二人の関係が本格的に進むのは1期10話。グループ内で浮いてる真姫と、まだ絵里を難しく思っている花陽。
メンバー同士のコミュニケーションに問題があるのが現状です。希と絵里はこの状況を改善したいと考え、その解決策として「先輩禁止」を提案しました。お互いに対等な関係になる必要があると。
そんな希と絵里が注目するのは完全に打ち解けているにこ。
「それは、にこ先輩は上級生って感じじゃないからにゃ」
にこはそういう扱いに不満が多いようですが、希と絵里が求めるのはまさにそういう扱いです。二人はとりあえず「メンバーたちに自然と名前で呼ばれること」を目標に設定しました。他の子たちは恥ずかしがりながらも呼んでくれますが、真姫だけは拒絶。つまり、ラスボスである真姫を攻略すれば二人の目標は達成されるわけです。
もちろんそれは簡単なことではありません。
真姫が他の人を名前で呼ぶというのは深い親密感の証拠であることが、1期4話で描かれてましたよね。色々あってかなり親しくなっていた同年代の花陽相手でもあんなに照れてたのに、まだ慣れない3年生相手じゃ、正直難しい。
だから二人は難易度に相応しい努力をします。合宿の間ずっと真姫を気にかけながら、真姫の近くに留まり、真姫に話かけ続ける。距離を縮めたいなら一緒の時間を過ごすのが一番ですからね。
「別に?真姫ちゃんは面倒なタイプだなぁって。本当はみんなと仲良くしたいのに、なかなか素直になれない」
「うーん、ほっとけないのよ。よく知ってるから。あなたに似たタイプ」
真姫に似たタイプ。単純に考えると絵里のことみたいに聞えます……が、10話で絵里が見せている姿は希の話と全然違うじゃないですか。みんなと普通に仲良くしてるし、上級生としてリードしてたり、先輩禁止なんて提案も自ら出してるくらいで。仲良くしたいけど素直になれない人だとは思えない。
今の絵里はμ'sに加入する時の経験で、自分を縛り付ける色んなものから解放された状態です。だから真姫に似たタイプは、強いて言うなら、過去の絵里だと言うべきでしょう。
そして、その過去の絵里に対する希の評価は、
「初めて出会った。自分を大切にするあまり、周りと距離を置いて、みんなと上手く溶け込めない。ズルができない、まるで自分と同じような人に。思いは人一倍強く、不器用な分、人とぶつかって」
過去の絵里=真姫。過去の絵里=希。
つまり、希=真姫。
もちろん希と真姫の性格は全然違うように見えるかも知れません。しかし、希は「理想的な自分の姿」を演じているのです。自分の本音を隠している。素直になれない真姫から、希は自分の姿を見ています。
「別に、真姫ちゃんのためやないよ」
穂乃果が作ったチャンスを掴んで真姫を攻略することに成功した希と絵里。これで二人はμ'sに溶け込むことが出来ました。そして真姫も、この二人の名前を呼ぶことでμ'sの全員に心を開いたのです。
「ちょっと話すぎちゃったかも。みんなには秘密ね?」
「面倒くさい人ね。希」
そして希は絵里にも語ったことのない本音を、秘密を真姫に伝えます。希は真姫の秘密を知っているように、真姫は希の秘密を知っている。本質的には似ている二人。お互いの秘密を共有する仲。共犯。友達。
希と絵里の関係とは少し違います。希と絵里はずっと一緒にいたから「お互いの本音を見抜くことが出来る関係」ですが、希と真姫は「お互いの本音を直接的に共有し合ってる関係」です。前者はパートナーで、後者は友達みたいな感じですかね。
「ねえ、絵里……ありがとう」
「ハラショー!」
合宿編の主役は水着ではなくこの3人でした。10話にしてやっと完成されたμ's。やっと彼女たちの話が始まる。長いプロローグでしたねぇ。
私の望み:ともだち、なんだから
「おかしい」
「おかしい?」
「絵里ちゃんが?」
そして、のぞえりまきリターンズ。2期8話です。
ラブソング制作を提案する希と、おかしいと言われるほど希の味方をする絵里。そんな二人の姿に違和感を感じる真姫。いきなりすぎる話に花陽は付いていけないのですが、凛は結構鋭いですね。
とにかくラブソングの制作に挑むμ'sです。
まず挑戦したのは、告白の練習。ラブソングですからね。ラブソングとはつまり恋愛の歌ですけど、グループ内に恋愛の経験者はない。だからシミュレーションをしてみる。そうです。これはあくまでもシミュレーションに過ぎず、このチョコレートに込められた「好き」はニセモノです。受け取る人すらも存在しない。
そんなニセモノの感情で上手くいくはずもない。ラブソングに対するメンバーたちの反応も悪いままです。
一方で、絵里が希にあげたキャンディ。このエピソード、何回も飲食が出てくるのですよ。こんなに出てくるのなら何か意味があるはず。じゃあこのキャンディはどんな意味を持つのでしょうか。
チョコレートはニセモノでした。感情も関係も実在しない。しかしこのキャンディは本当の感情と関係が込められた本物です。
ニセモノと本物。ラブソング作りに参考しているのは全部ニセモノなんです。にこはそれを「小細工」だと表現する。確かに小細工なんかで決勝に進めるはずがない。不満を語るメンバーたちと、それを素直に受け入れ諦めたように見える希。
そのまま終わるかと思ったら、納得出来なかった真姫が動きます。
「前に私に言ったわよね?面倒くさい人間だって」
「そうやったっけ?」
「自分のほうがよっぽど面倒くさいじゃない!」
真姫は希がどんな人間か知ってますからね。希が本当にみんなの意見に同意したわけではなく、ただ本音を隠しただけだと気付いたのです。怒るのも当然でしょう。面倒くさいとかなんとか言って散々人にお節介してきたくせに、自分自身も面倒くさいことをしているのだから。そりゃあ見てられないのです。
そしてまた飲食が登場します。3番目。
容器にはカモミールティーと書かれていますが、そこから出てきた内容物はカモミールティーではありませんでした。抹茶に近いように見える。作画ミスかな?でもわざわざ容器をはっきりと描写していたり、人物ではなくお茶を入れる行動をクローズアップで映したり、さすがに意図性を感じる。
外と内が違う。ニセモノの外側と本物の内側。それはつまり、東條希そのものではないでしょうか。
「なんやろうね?ただ、曲じゃなくてもいい。9人が集まって、力を合わせて、何かを生み出せれば、それでよかったんよ。うちにとってこの9人は、奇跡だったから」
「必ず形にしたかった。この9人で、何かを残したかった。確かに、歌という形になればよかったのかも知れない。けど、そうじゃなくても、μ'sはもう既に何か大きなものをとっくに生み出してる。うちはそれで十分」
希が何かに形を与えて残そうとする姿は何度も描かれていました。それは動画だったり、テキストだったり、写真だったり。ラブソングもそこまで唐突な話ではないでしょう。少しずつ忘れられてく記憶ではなく、確かな形として残るはずだから。
「夢はとっくに……」
覗き込んだお茶に映るのは幼い頃の希。つまり、本音。カモミールティーというニセモノではなく、本物を淹れたお茶だから、そこには本音が映る。綺麗なカモミールのお花ではないのだけど、それは確かに本物なのです。
夢を呟きながら思い出すのは、
4番目の飲食。オムライス。
ここに込められた感情はなんでしょう。誰がどんな感情を込めているのか、わからない。伝わらない。冷えた食事をひとりで取る、幼い頃の寂しい思い出。
「一番の夢は、とっくに」
その直後に映る5番目の飲食。ほむまん。
服を見るに、穂乃果が作ったのでしょうか。ラップに包まれたオムライスとは違って、出来立てのあたたかい食べ物。受け取るのは、希を含めたμ'sのみんな。
そこに込められている感情は、紛れもなく本物です。それが希の夢、希の本音なのでしょう。本物の感情を分かち合うみんなと一緒に過ごすこと。
まあ、今更ですよね。そんな本音はずっと前から語られていたのだから。
「別に?真姫ちゃんは面倒なタイプだなぁって。本当はみんなと仲良くしたいのに、なかなか素直になれない」
「別に、真姫ちゃんのためやないよ」
真姫に自分の心を投影し代弁させることで、です。この投影と代弁というのは、1期4話の真姫と凛が花陽に、1期8話で希が絵里に使ってたりします。自分では素直になれないから、自分と同じ本音を持つ人を手伝う。それは確かに面倒くさい人間だ。
「ともだち、なんだから」
希のおかげでμ'sに入った絵里。希のおかげで素直になれた真姫。今度は彼女たちが希を手伝う番です。友達という言葉、希が一番聞きたかった言葉ではないでしょうか。もう立派な希の理解者となった真姫です。
そしてラブソング制作・リベンジは、ニセモノではなく本物の「好き」を込めて。
この回のED担当だって希ソロではなくのぞえりまきの3人だったり。1期10話に続く3人のためのエピソードなのです。
最初のインタビューでも語られていたように、劇場版でも二人の関係は続きます。今回も真姫の秘密に気付くのは希ですね。1期2話ではμ'sの最初の曲について、劇場版ではμ'sの最後の曲について。
このシーンの希はいつもの飾ったしゃべり方ではなく、普通に話しています。TVAでもたまにそういう時がありましたが、なんとこのシーンでは全台詞がそうなっている。2期8話で凜は「話し方変わってるにゃ!」と面白がってたのに対して、ここの二人は自然で。真姫を相手にするときはわざわざ本音を隠す必要がない。どうせ真姫は知ってるから。二人はそういう関係なのです。
もちろん、気付いた秘密を放っておかないのも二人の関係性ですね。相変わらず希相手には本音を隠しきれないのも真姫らしいし。
ファイナルライブのOPアニメでも二人の絡みが登場。
1日目は「曲は出来た?」と真姫をからかう希。2日目は「こういうのはどう?」とツバサの台詞を引用し真姫をからかう希。なんと2パターンです。
特に2日目が面白い。このツバサの台詞は真姫の耳元に囁いた言葉で、つまり、真姫とツバサしか知らないということです。希はそもそもその場にいなかった。にこがいたけど、聞き取れる位置ではなかった。
そんな秘密を知っている。ツバサが教えたとは思えないし、真姫本人が話したということになりますが……その性格で自ら素直に教えたとは思えないし、希の挑発かひっかけに釣られてバレたりしたのでしょう。
そんな二人の関係、魅力的で面白いと思いませんか?